2024年12月中旬ごろより御嶽山での火山活動が活発化しています. 2025年1月16日には,御嶽山噴火警戒レベルが1から2へと引き上げられ, その後1月21日16:06には,傾斜変動を伴う火山性微動が観測されました. ここでは,今回の活動に関して,名古屋大学の観測研究で得られた情報を紹介します.
名古屋大学では,御嶽山周辺域の群発地震や火山活動を把握するために,地震観測網を展開してきました. とくに,御嶽山山頂直下の規模の小さな火山性地震を捉えるために,山頂域に名古屋大学独自の地震観測網(山頂観測網)を設置し, 御嶽山の火山活動を理解することに努めています.2024年7月以降,独自の山頂観測網を含む名古屋大学の観測点と全国諸機関の観測点で得られた地震波データを合わせて, 火山性地震のシグナルを検出する取り組みを開始し,従来に比べて地震の検出能力が大きく向上しました.
図1は,2024年1年間の御嶽山山頂付近の地震の震源分布(暫定結果)です. 7月以降,山頂域の地震数が急に増えているように見えますが,これは前述したシステムの更新に伴うものです. 12月以降は,11月までよりも深い部分で地震活動が発生したことがわかります(図2a). より詳しく見ると,地震活動は深さ方向に2つに分かれているようです(図3). このような震源の空間分布は,少なくとも1月21日に傾斜変動を伴う火山性微動が発生する前まで維持されていました. 微動発生後は,震源が浅くなる傾向がみられています(図2b).
図1:2024年に発生した御嶽山山頂付近の震源分布(暫定).
図2:震源深さの時間変化(暫定).a. 2024年7月~2025年1月の地震.b. 2025年1月の地震.データは,図3aの赤点線内のものをまとめた.
図3:御嶽山山頂付近の3次元震源分布.a. 2024年12月の地震.b. 2025年1月1日~21日12:00までの地震.火山性地震の発生している領域をaの赤い点線の□で示している.☆の位置は,1月21日の火山性微動発生後に噴気活動が再開した場所.
1月21日16:06ごろ,傾斜変動を伴う火山性微動が発生しました.図4は山頂から8km以内の傾斜計(橙)や広帯域地震計(青)で記録された傾斜変動の波形です.観測点によって少しずつ波形が違いますが,多くの観測点で16:08頃から16:11頃までかけて山頂側が隆起する傾斜変動が起きたことが分かります.
図5は同時刻に名古屋大学の山頂観測網の観測点で記録された地震波形(青)と空振波形(緑)です。200秒過ぎに見られる強い信号は一連の活動の中の最大の地震で、マグニチュード2.3と推定されました.これは御嶽山山頂域で発生する地震としては非常に大きいものです。この地震よりも前から長時間続く振動(火山性微動)が発生していたことが先頭部分の拡大図(図6a)から分かります。また、最大地震の直後の部分を拡大してみると,縦方向に伸びた細い髭のような線が見えます(図6b).この線が地震の発生を示しており,火山性微動の発生中に,多数の地震が起きていたことが分かります.
図4:火山性微動発生中の傾斜変動.波形は山頂からの距離順に表示しており,傾斜計データは橙,広帯域地震計は青で示す.山頂側が隆起するときを上向きで示している.
図5:火山性微動発生中の地震波形と空振波形.地震波形を青,空振波形を緑で示す.
図6:火山性微動中の地震波形と空振波形の拡大図.a. 火山性微動のはじまり.b. 最大地震発生直後.