NGY地震学ノート No.2a

Aug. 1, 2007
名古屋大学地震火山・防災研究センター

◆遠地実体波解析(改訂版)+ 近地解析◆ ----------------------------
7月16日新潟県中越沖地震(M6.6)
----------------------------------------------------------------

● 概略 7月16日10時13分(JST),新潟県中越沖で発生した地震では 11名の方が亡くなり,2000名近くの負傷者がでました.また20000軒以上住家被害 がでました.
この地震は逆断層型の地震です.このようなメカニズムの場合,遠地地震波解析 だけからは断層面を特定しづらく,速報では多少波形の一致がよかった南東傾斜の 断層面を仮定した結果を載せました.しかし短周期成分がうまく説明がつかず, また余震分布ともあわず自分自身結果に納得していませんでした.そこで遠地 実体波解析を再度行いました.また近地地震解析もしてみました.

●遠地実体波解析結果:
波形をもう一度よく見直し再解析した結果,北西傾斜 でも南東傾斜でも波形をよく説明できることがわかりました.それぞれの結果を 図1図2に示します.
南東傾斜を選ぶと地表に投影した余震分布とは全くあいません(MAP2). 一方北西傾斜の断層面なら余震分布とよく一致するように見えます(MAP1).ただし 余震分布も海側で起こっているものについては深さに不確定さがあり,余震分布が 北西傾斜であるかどうかはいまのところよくわかりません.

 北西傾斜南東傾斜
走向、傾斜、すべり角(224,60,89)(50,36,93)
地震モーメント1.5x10**19 Nm1.3 x10**19 Nm
Mw 6.7
破壊継続時間20 s
深さ10km16 km

●近地解析結果:
近地強震計記録(K-NET, KiK-NET)を使って解析をしてみました.解析に 用いた観測点分布はこちら. その結果,北西傾斜の断層面では遠地と同様,余震分布とよくあう結果が得られました.
一方南東傾斜の断層面ではどうしても大きなすべりを余震分布から離れたところに 置かなければ波形がうまく説明できませんでした.

走向、傾斜、すべり角(218,63,85)
地震モーメント7.3 x10**18 Nm
Mw 6.5
破壊継続時間30 s
深さ12 km
最大すべり量0.9m

震源時間関数を見るとかなり複雑なマルチプルショックであったことがわかります. 震源付近ですべりがあったあと,10秒後に南西方向でメインなすべりが起こった ようです.
下図は近地強震計記録解析で求められたすべり分布です.背景の○は気象庁 による余震分布です.ちょうど大きなすべりを囲むように余震が起こっています. この大きなすべりの近くに観測点(図中)があります.ここがK-NETでもっとも大きな 加速度が観測された柏崎です.この観測点の記録はスパイク状の波形が記録され強い 非線形効果を受けたと言われています( 防災科技研HP参照のこと).

●国土地理院によるGPSデータ解析結果によると,北西傾斜の断層面を考えた方が データを説明できるということです.地震波形解析だけからは断言できませんが, 北西傾斜の断層面を考えた方が余震分布などその他のデータも説明できるようです.
しかしまだ現在では余震分布に明らかな北西傾斜の並びは見られません. 今後海底地震計のデータなどが加わって深さ精度が上がることを期待したいと思います.

(文責:山中)