2000年三宅島火山活動

   1983年12月21日の雄山火口   2000年7月9日の雄山火口

  

 2000年6月27日、三宅島の西方沖で海水の変色が観測され、海底で噴火が起こった可能性があるとの発表がありました。それから2ヶ月間、三宅島周辺は活発な活動をしてきました。2000年9月には全島民の避難も行われました。それから1年以上経った現在でも、三宅島の火山活動は続いています。しかしマスコミ等の報道にもあるように、三宅島マグマの動きは研究者の間でも議論が分かれていて、はっきりした状況はわかりません。  ここでは現在まで行われている三宅島での観測でどのようなことまでがわかってきているかを簡単に紹介します。なお、これらは今現在の話ですから今後結果が変わることもあります。そのつもりで眺めてください。


★☆★ 三宅島雄山の概要 ★☆★

 三宅島は海底部分も含めると直径20〜25km程度のやや南北に伸びた円錐形の火山です。陸上に現われた三宅島火山は、ほぼ円形で直径が約9kmあります。 西側山腹の標高350m付近はなだらかな斜面となっていて、村営牧場や笠地観音などがあります。これは桑木平(くわのきたいら)カルデラと呼ばれ、直径約4 キロ程が円形に落ち込んだ跡です。カルデラ西〜北側の縁の外側斜面は急になり、また深い谷が切れ込んでいます。その後、カルデラの中は新たに成長した火山の噴出物に埋めたてられたため、カルデラの東〜南の縁は不明瞭になっています。さらに、標高 700m付近には1.8km×1.6kmほどの八丁平(はっちょうだいら)カルデラと呼ばれる内側のカルデラが2500 〜3000年前に形成されました。雄山(おやま、813.9m )は八丁平カルデラの中に成長した火山です。
 過去には島の中心から、あるいは放射状の割れ目からの噴火が繰り返し起こって、玄武岩質の溶岩、スコリアを噴出しました。スコリア丘や小火口列が多数並んでいるのはかつての噴火割れ目の跡と考えられます。割れ目が海岸線近くに達すると激しいマグマ水蒸気爆発が起こることがあります。こうして形成されたマールには三池(みいけ;9世紀に形成)、 金曽(かなそ)、水溜り(みずたまり)、古濡(ふるみお: 南半を大路池が占める;2500-3000年前)、山濡(やまみお;2500〜3000年前)、新濡(しんみお;1763年に形成され1983年新濡池があった)、釜根(かまね)などがあります。海岸付近まで流下した溶岩は、三池港埠頭の先にあるクラマ根、ベンケ根や阿古の今崎などのような岬や溶岩扇状地をつくっています。最近1万年間をみると、2500〜3000年前の八丁平噴火が最も規模の大きな噴火でした。
 三宅島火山の噴火は西暦1085年以来1983年の噴火まで少なくとも14回記録されており、噴火のたびに大きな被害と不安を受けてきました。1983年の噴火以来10余年が経過した現在、次の噴火へ向けて、島の膨張と隆起が続いていて、近い将来、噴火する確率が高いと考えられています。過去の噴火の歴史を知っておくことは、将来の噴火の推移を予測する上でも非常に重要です。
 (津久井雅志氏HPより)


★☆★ 2000年三宅島雄山火山活動推移 ★☆★


(東大地震研 中田氏によるまとめ)


★☆★ 三宅島雄山山頂火口の様子 ★☆★

 1ページ目の写真(右)は7月8日の雄山火口の様子です。かつての山頂(写真左)の状態を保ちつつ陥没している様子が分かります。この山頂陥没によって多くの観測機器がなくなりました。しかし陥没はこれで終わりませんでした。下の写真は9月3日に撮影されたものです。1ページ目の写真と全然違いますね。
 右のグラフは山頂陥没口の断面を示しています。日を追って火口が拡大していった様子が分かるでしょう。その後も火口は拡大して行きました。下図は火口の拡大範囲を示したものです。かつてあった山頂駐車場もいまはなくなってしまいました。

2000年9月3日の雄山火口

(東大地震研究所HPより)


★☆★ 地震活動 ★☆★

 左図は6月末から9月までの一連の地震活動の様子を示したものです。三宅島で始まった地震活動はだんだん西に広がり神津島まで延びていきました。現在これらの活動は減りましたが、まだ続いています。
 この期間中マグニチュード5以上の地震も起き、神津島、式根島、新島に被害をもたらしました。これらの中には正断層型の地震も含まれています。この地震は地下からマグマが上昇してきていることを示しているものと考えられます。

(東大地震研 酒井氏による結果)


★☆★ 三宅島活動で見られた長周期地震 ★☆★

 今回の三宅の活動では、日頃ではあまり見たことのない周期50秒程度の長周期の波形が得られました。下に示した波形は三宅島島内で得られた速度波形です。40秒あたりで見られるのがふつうの地震波形です。140秒あたりに見られるのが今回問題の記録です。

これらの長周期地震は7月11日から8月18日の噴煙がもっとも高くまであがった噴火が起こるまで、1日に1〜2回起こり続けました。
 それだけではありません。次のグラフを見てください。これは三宅島島内の数点の傾斜計の記録です。鋸の歯のように見えますね。これは山が急激に膨張しその後だんだん沈降していく、というのを繰り返していることを示しています。そしてここで見られる急激な膨張と地震の波形で見られた長周期地震が対応します。

このほかにも地電位差の変化でも同様な変化が見られました。これらの現象を説明するには地下水が大きく関与していると考えられます。我々は、地下水がマグマの熱で膨張し気化することによって山頂付近を膨張させ、地震計や傾斜計にこのようなステップ状の変化が見られたと考えています。(埋もれた間欠泉モデル)このほかにも地電位差の変化でも同様な変化が見られました。これらの現象を説明するには地下水が大きく関与していると考えられます。我々は、地下水がマグマの熱で膨張し気化することによって山頂付近を膨張させ、地震計や傾斜計にこのようなステップ状の変化が見られたと考えています。(埋もれた間欠泉モデル)
 水の気化による体積膨張と考えて地震波形を理論的に計算すると下図のようになります。この図は上がフィルターをかけて短周期成分を落とした観測波形を、下側がそれに対する理論波形を示しています。その結果100万立方メートルのオーダーの体積膨張があったとすると地震波形は説明できることがわかります。

地下に閉じこめられた間欠泉モデル
STEP 1
地下水が「熱水たまり」に流れ込み、灼熱岩塊にふれて水蒸気となる。蒸気圧の上昇で火動上部に微小地震が発生する。
STEP 2
蒸気圧があるしきい値を越え急激に膨張して周囲の岩体を押し広げ、「長周期パルス」を発生する。膨張が最大に達したところで上部岩塊が落下し単力源の「短波長パルス」を発生する。
STEP 3
水蒸気は徐々に液化して体積は減少して雄山は収縮する。

(東大地震研 菊地・山中)


★☆★ GPSでみた三宅島 ★☆★

GPSを使うと地殻の動きをとらえることができます。下のグラフは三宅島島内の2点間の斜距離の変化を示しています(国土地理院)。上のグラフは山頂を通る南東ー北西方向(地図中の21)の、下のグラフは島の西部の北ー南方向(地図中の22)の斜距離です。右下がりのグラフは2点間の距離が縮んだことを表しています。この2ヶ月間で島が縮んでいるのがわかるでしょう。グラフ21をみるとなんとたった2ヶ月間で1mも縮んでいます。これはマグマの下への移動を表す現象だと思われます。


(国土地理院資料より)

 下の図は三宅島島内のGPS稠密観測網でとらえられた地殻変動の様子です。左図は6月26−27日のマグマ貫入事件前後の変動の様子です。赤色が沈降を、青色が隆起を示しています。またベクトルはその場所の水平方向の動きを示しています。この時期山頂付近が沈降していることがわかります。おそらく山頂直下にあったマグマが移動したためだと思われます。また、ベクトルをみると三宅島北西地域は北東方向へ、南西地域は南方向に移動しています。これはマグマが三宅島西岸から海の方へ貫入したためだと考えられます。右図は7月はじめから8月はじめにかけての変動です。雄山山頂からやや南にかけての地域を中心とした収縮が続いていることがわかります。

(東大地震研HPより)


★☆★ 重力でみた三宅島 ★☆★

 右図は9月4日現在の島内各地点での重力の大きさを1998年6月と2000年7月6日を基準にしたときの変動量で示したものです。山頂付近は観測できなかったためデータがありません。あれば間違いなく巨大なマイナス変化が観測されるはずです。(それは陥没してものが無くなっているから)。図を見ると島の中央部から南西に向かう軸に対象な変動が見えます。これはこの軸の下にあるシート状マグマが閉じているためと考えられます。
(東大地震研HPより)


火山災害の用語集  (津久井雅志氏HPより)

火山性微動 
火山体に発生する地震で連続的な振動のことをいいます.一般の地震が岩石が瞬間的に破壊されて発生するのに対し,地下でマグマやガスなどの流体の運動が原因と考えられています. 
火山泥流・土石流 
噴火によって地表に堆積した火山灰が大雨で流されて泥流となることがあります. 発生したら高台に避難する必要があります. 
火山灰 
火口から放出される細粒の噴出物のうち径が2mm以下のものをいいます. 
火山豆石 
火山灰が球状に固結したものを火山豆石と呼びます.マグマ水蒸気爆発に伴って形成されることが多く,2500-3000年前の大噴火の時には火山豆石が全島を40cm以上の厚さで覆いました. 
カルデラ 
非常に大規模な噴火が起きると山体の中心部は落ち込んで大きなくぼみを作ります.三宅島では過去に少なくとも2回カルデラができました. 最初のカルデラ形成のの跡が桑木平に,2度めにできたカルデラのなごりが八丁平となりました. 
スコリア 
気泡に富む軽い火山岩.三宅島の噴火では溶岩が流れ下る一方で,空高く噴きあげられたスコリアが風下側に落ちてきます.過去の噴火でも坪田地区が降下スコリアの被害を受けたことが記録に残されています. スコリア丘 
スコリアが火口周辺に堆積して生じた円錐形の小丘のことをいいます.三宅島では雄山のほか山腹噴火により多くのスコリア丘が形成されました.割れ目噴火地表に生じた細長い割れ目(割れ目火口)から噴出する噴火.三宅島では過去の噴火の多くが割れ目噴火を伴うものでした. 割れ目の長さは数kmに達し,山麓から海岸にまでおよびます. 
噴煙 
火山ガス・火山灰・スコリアなどが火口から噴出し生ずる煙のこと.噴火の際には火口の上空に噴煙柱が形成されます. 
マグマ 
地下にある岩石物質が溶けた高温のものをいいます.これが地表に現われたものを溶岩と呼びます. 
マグマ水蒸気爆発 
浅い推定や海岸近<にマグマが上昇してくると,マグマが直接水に接して激しい爆発をします.三宅島の噴火現象では最も危険なものです.火口周辺約1kmには爆風とともに岩石や土砂が吹き飛ばされてきます.もちろんその場にいたら助かりません.もしもこのような噴火の兆しがあれば緊急にその地域から脱出しなければなりません. 
マール 
マグマ水蒸気爆発の結果大きな火口が開きます.このようにしてできた火口をマールといいます.新濡池,大路池,山濡,水溜りや金層などはこのようにしてできたものです. 
山腹噴火(側噴火) 
火山の中腹または裾野で起こる噴火のことをいいます.山頂火口に通じる火道 (マグマの通路)とは別の火道を通ってマグマが地表に噴出する結果おこります.割れ目噴火に密接に伴うものです. 
溶岩流 
溶岩流は高温ですが,流速はやや遅く,山腹から集落まで到達するのに数10分から2時間かかります.三宅島の過去の噴火のほとんどは溶岩流を伴うものでした.過去1000年前から1983年までに流れたことがわかった溶岩流の広がりを図に示しました.1643年,1983年噴火では阿古地区, 1874年噴火では神着東郷地区が,溶岩流による大きな被害を受けました.低地に向かって流れるので,一般的には巻き込まれて命を落とす可能性は少ないのですが,溶岩によって避難路が寸断されると大変危険です. 
割れ目噴火 
地表に生じた細長い割れ目(割れ目火口)から噴出する噴火.三宅島では過去の噴火の多くが割れ目噴火を伴うものでした.割れ目の長さは数kmに達し,山麓から海岸にまでおよびます. 
(文責:山中佳子)