地震の発生メカニズムの解明に向けて

地震は,地殻内に蓄えられた応力を,断層運動によって一気に解放する
物理過程です.地震の発生メカニズムを理解するためには,地下に働く
応力状態や断層の破壊強度を知ることが重要です.
私は,数値計算・データ解析・地震観測を通じて,地殻の応力状態や断
層の強度を推定することを目指しています.


テクトニック応力場の推定


 
tectonic_stress 日本列島は,4つのプレート(太平洋プレート,フィリピン海プレート,北米プレート,ユーラシアプレート)が相互作用を及ぼし合う複雑なテクトニック環境下に置かれています.日本列島域では,これらのプレート間の力学的相互作用と地殻内の構造境界の運動によって形成された複雑な応力場を反映して,時間的にも空間的にも複雑で多様な地震活動が観測されます.1995年兵庫県南部地震の発生以降,日本列島全域に稠密地震観測網が整備されると,大地震はもちろんのこと,中小地震のメカニズム解やモーメントテンソルデータ(地震時の応力解放様式を示すデータ)が網羅的に得られるようになりました.このような良質で大量の地震データを統計的に分析することで,地下に働く応力場を3次元的に推定することができました.解析で得られた応力場の結果は,日本列島が概ね東西圧縮の応力状態(東北日本は東西圧縮の逆断層型,西南日本で東西圧縮の横ずれ断層型)にあることや,外縁隆起帯で伸張軸が海溝軸と直交する正断層型の応力場が形成されていることを示しています.より小さなスケールでは,千島前弧スリバーの南西進,伊豆弧の本州への衝突,近畿三角帯,別府―島原地溝帯に対応した特徴的な応力パターンを見てとることもできます.これらの応力場の結果は,第四紀のテクトニクスとも調和的です.このことは,地殻応力が地震の原因であると同時に,テクトニック運動の結果でもあることを示しています.このように,大量の地震のデータから応力場のパターン(主応力軸の方向や,主応力の相対比)を推定することはできるのですが,実際にどれくらいの応力が働いているのか(主応力の絶対値)はよくわかっていません.地殻に働く絶対応力レベルを知ることは,地震学の本質的な課題です.


地殻内間隙流体圧場の時間発展解析


 
basel_fluid 地震の発生には,地下に閉じ込められた高圧な液体やガス(流体)が重要な役割を果たすことが明らかになってきました.高圧流体は断層の摩擦強度を低下させ,地震の発生を促す効果をもたらします.私たちは,地震のメカニズム解から,地下の間隙流体圧場を3次元的に推定する手法を開発しました.これにより,間隙流体圧と地震活動の時間発展を詳細に調べることが可能となりました.最新の解析結果では,注水実験による誘発地震の多くは,間隙流体圧の上昇による断層強度の低下で発生している様子が捉えられました.自然地震においても,地震の発生における応力や間隙流体の役割を解明できれば大変興味深いと思います.




地震と火山の相互作用:応力場に基づく御嶽火山のモニタリング


 
ontake 2014年9月27日,午前11時52分,御嶽山は7年ぶり,有史以来4度目の水蒸気噴火(VEI = 2)を引き起こしました.火山活動にはしばしば地震活動が伴うことから,これまで地震観測を通じて火山の状態を把握する試みがなされてきました.しかし,火山性地震の種類/活動度の推移の傾向から大まかな噴火過程の予測は行われているものの,不確定性が大きいのが現状です.私たちは,御獄山直下の局所応力場に着目し,火山活動と応力場の関係を分析し,応力場の時間変化を通じて火山活動をモニターする手法の実用化を目指しています.これまでに,2014年噴火の直前約2週間に,火山活動の活発化によって引き起こされた顕著な応力変化があったことがわかっています.この応力変化は,御獄火山が噴火前に東西方向に膨張を引き起こしたことを反映したものと考えられます.一方,噴火に伴い東西伸長を示す局所応力場のずれは急激に小さくなり,噴火前とは逆の東西方向に山体が収縮する様子がとらえられました.
 








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