利根川 貴志(東京大学地震研究所・日本学術振興会PD)
「合同大会はいい学会です」
4年生の春に、同期3人で合同大会に自腹で参加しました。講演内容はまったくわからなかったのですが、それでも面白そうだと感じ、名古屋に帰ってすぐに指導教官の平原先生に「今から卒論をさせてください」と頼んだことを覚えています。それからは、平原先生のそのときの気分でいろいろ勉強をしていたので、実際に卒論を始めたのは10月からでした。この時期に、僕に学位をくれたレシーバ関数と出会ったわけです。
修士の間は、日本列島の下のマントル構造をきれいにイメージングすべく、さまざまなデータに手をつけてきました。ですが、やはり上部マントルをきれいにイメージングするためには、長周期成分と高い観測点密度が必要でした。そんなことを考えていたときに、D1の春に再び合同大会に出席したわけです。そこで、防災科研の小原さんの講演を聴いていたのですが、スライドの中の「Hi-net傾斜計―水平成分・長周期」という言葉が目に入りました。当時はあまり傾斜計の知識がなかったので、その講演が終わった後すぐに平原先生をつかまえて、傾斜計についていろいろ話を伺いました。どうやらこれは使えそうだと感じ、合同大会の他の講演を聴かずに(内緒でお願いします)、どうすれば使えるかを会場のソファーに座って考えていました。学会会場ですので、迷ったときは知り合いの研究者を捕まえて聞けばいいわけですし、傾斜計記録を使っていいかどうかは防災科研の方を捕まえて聞けばいいわけです。話は順調に進み、傾斜計記録によるイメージングもでき、さらに学位までいただくことができました。
レシーバ関数マイグレーションによる日本列島下の上部マントル構造推定
(Upper mantle structure beneath Japan Islands by receiver function migration)
ここで申し上げたかったのは、このときは本当に楽しかったということです。修士を終えて、自分でいろいろ考えられる能力も少しずつついてくる時期です。そんなときに、自分の研究に何が足りなくてどうすればそれを補えるか、どうすればより改善できるか、そういうアイデアが浮かんだときと言うのは、とても興奮して充実した生活を送ることができると思います。僕自身、D1の5月からの2ヶ月間は非常に有意義な時間を過ごすことができました。おそらくですが、研究が楽しくなってくるのは、修士の後ではないかと思います。いや、もしかしたら博士の後かもしれませんが、それは今後自分で確かめてみることにします。とりあえず、博士に行くかどうか迷ってらっしゃるそこのあなた。悪いことは言いません。一度博士まで行ってみてはいかがでしょうか?きっと楽しい研究生活が待っていると思いますよ。もちろん、責任は自分で負ってくださいね。
「研究者は旅行好き」
国際学会は世界中の様々な都市で開催されます。ポスター発表などであれば、基本的には、ポスターを印刷した後はもう手を加えることができないので、仕事的にも気持ち的にも解放されます。そうすると、国際学会に行くのに旅行気分を満喫することができます(むしろ研究者は、このときぐらいしか旅行気分になれないのかもしれません)。でも、いろいろな都市を見るというのは、本当に楽しいです。博士後期課程、行ってみませんか?
「新しい生活」
現在は、東京大学地震研究所の海半球観測研究センターというところでPDをしています。D論でやったことをこちらでも発展させることができれば、と考えています。また、こちらのプロジェクトで、今年度から中国で広帯域地震計を200点以上設置するという大規模な観測が始まります。そのデータも使うことができるので、今からどんな地球内部の構造が見えるか楽しみにしています。ここは研究者が多いので、わからないことがあればすぐに聞けますし議論もできます。先週も早速お話をしてきました。これから一年間、しっかり楽しみたいと思います。
2006年度 名古屋大学大学院環境学研究科地球環境科学専攻博士後期課程修了
指導教員 渡辺俊樹助教授